これは豚肉の話
宮治さんの豚が、みやじ豚になるまで。
自分たちの豚を自分たちで売るという革命(宮治勇輔)
今まで食べた豚肉で一番うまい!これどこで買えるの?」品評会に出した豚肉が目の前に大量にあり、自分たちだけでは食べきれるわけもないので、せっかくだからと開催したバーベキュー。その場で、とても喜んでくれた友人が発した問いがこれでした。
「家業の豚の肉をどこで買えるのか?」 実は答えられる生産者ってかなり少ないんです。精肉業者からその先は、生産者の手は行き届かない領域。神奈川県産のブランド豚として販売されるだけ。これは、日本の生産、流通の基本的な流れであり、言いかえれば常識です。そして、私たちはこの常識を破る決断をしました。自豚舎豚のブランド化です。
その大きな理由は、美味しい豚を作りたかったからです。ひたすら高みを目指し、飼育方法を工夫し、餌を試行錯誤し、血統に腐心し、豚のことだけを考えてきました。神奈川のブランド豚の枠も超えて、できることは全部したかったからです。
この豚は、うちだけが作れた豚なんだ、という矜持も当然ありました。そうして、自分たちの名前をつけた豚、「みやじ豚」がここに生まれました。
やがて、みやじ豚は少しずつ有名になってきました。うちの豚をわざわざ探し出して評価してくれる人も増えてきました。月生産100頭という、小さな規模。日本の養豚業者の平均から見ても半分程度の生産量です。希少性は間違いありません(笑)。ただ、希少な分、生産現場から、お客様の口に入るまで、全責任を持って育てています。
自分たちの名前を掲げた以上、逃げも隠れもしません、というより、逃げられません。より美味しい豚を、大事に育てていきます。今日、この豚肉に出会ってくれて、ありがとうございます。美味しいと思ってくれたら、私達の最高の喜びです。
家業は誇りになり挑戦となった(宮治昌義)
みやじ豚の源流は私の父の代。藤沢で養豚が盛んになってきて、うちもその流れに乗っかったんです。やがて農業基本法が制定され、選択的拡大という波がきた…・。 そして、みやじの仕事は「養豚」になっていったんです。
日本は経済成長の真っただ中で、人もどんどん増えていく時期でした。経営は順調。自前の豚舎を月出荷40頭弱規模に拡大しました。そのタイミングで、周囲の養豚家とブランド豚を共同経営でやろうという話が舞い込んできたんです。補助金が出て、当座の出費はなく大きな豚舎が経営できる。強く請われたということもあり、首を縦にふりました。いっきに月出荷500頭レベルの藤沢で一番の規模の豚舎の共同経営者の一人になったんです。
共同経営の大豚舎と、自前の豚舎という二つの生産体制。大豚舎はブランド豚育成のルールにのっとって経営し、自前の豚舎ではいろいろな工夫をしていました。 詰め込まないゆったり飼育、豚の入れ替えを行わず兄弟で過ごさせる腹飼い、味と栄養の効果を考え抜いて選ぶ飼料。健康でおいしい豚を育てることー、それは楽しくて、厳しい家業。
そんな家業を、二人の息子がそろって継ぐと言ってくれたんです。しかもそこに「みやじ」という名前を載せたいんだという。 これは、これまでやってきた仲間との決別を意味します。共同経営の豚舎から十分な収入はあったし、長い間一緒にやってきた関係性もある。でも、息子の想いは、私にとっても生産者としての矜持をもう一度思い出させる熱いものだったんです。
共同経営の話を受けた時、条件を一つ出していました。それは、自前の豚舎の豚は、好き勝手にできるというもの。思えば、こういう未来が来るかもしれないという予感があったのかもしれません。
自分の育てた豚が、自分たちの名を冠して市場に出る。こんな前例のない挑戦に、この年で挑めるというのは、実はとても楽しく喜ばしいことなのかもしれないと、今では思っています。
ストレスフリー飼育 腹飼い
臭みがなく良い香りで、脂が軽く繊細な美味しさの秘訣は、“豚にストレスを与えず、のびのびと育ってもらうこと”が大きな要因です。そもそも豚は神経質でストレスに弱い生き物。
ていねいに育ててあげないと、外見ではわからなくても味に影響を及ぼします。 みやじ豚は、本来なら20頭以上は入るであろう広いスペースで、同じ親豚から生まれた兄妹豚10頭前後がゆったりと育てられます。 豚は家族仲良くのびのびと育ち、臭みの無い繊細な味わいの豚肉になるのです。
旨味を増幅する特別配合の飼料
豚は雑食でなんでも食べる動物です。そして、身体は食べたもので作られていきます。 だからこそ、飼料は豚肉の味を決める最も重要な要素です。日本のみならず世界でも、一般的な食肉用の豚は、とうもろこしを中心に食べて育つことがほとんどです。 でもみやじ豚では、とうもろこしは食べさせません。主に、大麦・小麦・さつまいもなどの芋類・米を特別配合した飼料を与えています。香り、脂の軽さ、旨味、を考えてたどり着いた私たちの結論です。旨味に富んだ、白く綺麗な脂肪を持った豚を育てる大切な飼料です。
肉質を決める血統
DNAにより与えられた肉質の壁、これは育成以前の大事な要素です。より良い肉質を体現するために、血統が非常に重要です。みやじ豚では、系統の異なる3種の豚を交配する三元交配を採用しています。しかし、ただ血統を見ればいいわけではありません。親豚の肉のつき具合はもちろん、歩き方などをしっかり観察します。このことで、肉質の柔らかい豚に育つか否かを判定できるからです。結果として、良い肉質の豚のみに絞って出荷することができています。