これは豚肉の話

【プロフェッショナルが語るみやじ豚】松浦達也様

株式会社みやじ豚

みやじ豚がつくる、未来の豚肉食文化

十数年前、みやじ豚を初めて口にしたとき、「きれいな味の豚肉だな」と思ったのを覚えています。それから折に触れて主に外食でみやじ豚を食べてきましたが、昨年久しぶりにみやじ豚の通販サイトからバラ肉を取り寄せて驚きました。 もともと脂が甘く、味に透明感があるお肉でしたが、旨味がグッと前に出るようになってきていたのです。 外食だけでは、そのことに気づくことができていませんでした。 特に外食において豚肉は、エース格の食材とは言いづらいポジションにいます。フレンチなどの高級店では、メインとなる肉料理において、牛肉や 羊肉と比べてリーズナブルな位置づけのことがほとんどです。 大衆的な店でも、生姜をがっつり効かせた生姜焼き、真っ黒に酸化した ラードで揚げられたとんかつ、スパイスの印象が前面に立ったカレーに 象徴されるように、「素材を活かす」というより「どんな豚肉でも、調理や

調味で食べさせる」ことに主眼を置かれた強い調理・調味がなされていて、良い豚肉ほど素材の良さが伝わりにくい、もどかしい面があるのです。 しかし豚肉だってそれに見合った調理がされたほうがいいに決まっています。 たとえば僕は、みやじ豚でしゃぶしゃぶをするときに、お湯を沸騰させません。薄い昆布だしをひいて70°Cくらいに温め、20秒ほどそっと豚肉を沈めておく。すると肉の繊維は縮まず、その代わりに味わいがグッと膨らみ、滑らかな舌触りが得られます。 沸騰したお湯でしゃぶしゃぶをすると肉の繊維と筋が引っつれるように縮んでしまいますが、70°Cのお湯だと筋が縮まず、食感や味わいを肉のなかにとどめておくことができるのです。「豚肉を沸かさないお湯でしゃぶしゃぶして大丈夫?」と心配される方もおられるかもしれませんが、70°Cで十数秒の加熱は食肉についての研究が日本よりも進んでいるアメリカでの基準値と同等の加熱です)。

みやじ豚のバラ肉はブロック肉のほか、薄切りでも厚さを選ぶことができます。僕はしゃぶしゃぶ用、3ミリ、5ミリという3種類の厚さのバラ肉を取り寄せて、しゃぶしゃぶをしてみました。 しゃぶしゃぶ用がするする入る心地のいい味なのは想定通りでしたが、3ミリと5ミリは圧巻でした。3ミリはグッと噛みしめると肉の味がグッと膨らみ、口のなかに旨味が広がっていきます。5ミリはさらに味わいと食感が強く、みやじ豚の味わいが長く口の中にとどまります。 その味わいの第一印象は「こんなに美味しかったっけ?」。もちろん以前から美味しかったのですが、久しぶりのみやじ豚はさらに美味しくなっていたのです。取り寄せたロースを新しい米油で揚げたとんかつも澄んだ味わいなのにグッと深みが増していました。以前から味わいの美しさは印象的でしたが、そこに力強さが加わっていたのです。 畜産物の味わいは、一般に血統、環境、飼料で決まるといわれます。特に豚肉の味は環境に左右される面が大きい。血統が一般的な三元豚と同じLWD(ランドレースx大ヨークシャーメデュロック)でも環境と飼料次第で味わいはさまざまです。

全国のさまざまな豚肉を食べてきた僕自身、「豚はストレスが少なく快適に暮らしている個体のほうが美味しい」と感じていますし、生産の現場を知る問屋や精肉店の方に聞いても、例外なく同じようなことをおっしゃいます。 みやじ豚は生後、同じ母豚から生まれた兄妹と出荷直前まで暮らします。一頭あたりの飼育面積も広い。いわゆる“ストレスフリー”な環境です。 加えて、みやじ豚は飼料にも常に気を配り続けています。豚肉の飼料に穀物は欠かせませんが、十数年前はとうもろこし、数年前にマイロ(コーリャン)の給餌をやめ、いまは大 麦を中心とした飼料設計をされているそうです。 飼料由来か環境由来かはわかりませんが、10年以上前からみやじ豚を食べている僕としてはいまのみやじ豚がみやじ豚史上最高の味わい。そして理念を曲げず、家族経営で大切に豚を育てるみやじ豚はさらに美味しくなっていくはずです。 豚肉食文化にはまだまだ伸びしろがあります。高級レストランのシグネチャー料理として豚肉が憧れられ、町場の飲食店でも豚肉自体が持つ味わいを大切にし、家庭でもいい豚肉を自発的に選んでいく。そんな豚肉食文化を国内に醸成させるため、これからのみやじ豚も楽しみにしています。 思い出したら、お腹が鳴りました。ぐう。

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